Quantcast
Channel: TIME & SPACE
Viewing all articles
Browse latest Browse all 1494

オオカミもあくびがうつる?

$
0
0

あくびの伝染は、共感能力に関係しているという。
では、動物でも起こる現象なのか? その答えはイエスだった。

親しいほど伝染するあくび

仕事場や通勤電車の中で、誰かがあくびをすると、自分もあくびをしてしまう。そんなあくびの伝染は、半数の人に見られる現象だ。なぜあくびをするのかは科学的には未解明だが、あくびの伝染が共感能力に関係していることは、わかっている。

誰かの思いを理解し、感情をわかち合う素質=共感能力は、私たちのような社会的動物に欠かせない能力だ。あくび自体は、感情の反応ではないので、奇妙に思えるかもしれないが、人間同士が親密なほど、知らない間にあくびは伝染する。

共感のルーツを解く鍵

あくびは無意識な反応だけに、複雑な認知を要する共感より、共感の基本の形に関係していると考えられている。その研究により、動物の進化の過程で、共感がどのように生まれたかを解明することができる。

魚から猿まで、ほとんどの脊椎動物はあくびをする。しかし、あくびの伝染現象についての報告はなく、チンパンシジーやボノボなどの霊長類の群で見られるだけだ。霊長類と人類の遺伝的な類似を考えると、これは不思議なことではない。問題は 霊長類以外の動物のどこまで、この現象が見られるかだ。

犬の伝染あくび

チワワからスタンダードプードルまで十数種の犬種についての研究で、人から犬へとあくびが伝染することが発見されている。興味深いことに、見知らぬ人物より、飼い主などのなじみ深い人のあくびを見たり、感じたときのほうが、犬が反応する頻度は高い。人と犬の感情的なつながりが、あくびの伝染には重要な役割を果たしている。

犬は人間のあくびを感じ、それが共感の度合いに関係していることはわかった。しかし、犬は、人間の道連れとしての何千年もの歴史があり、人間のコミュニケーションサインを読みとる能力に長けている。特に敏感な犬が選択されてきたため、あくびの伝染という霊長類の”特別”な資質をもつようになったのかもしれない。

犬の研究は、この現象がどこまでの動物間で見られるかという問題の答えにはなっていない。

オオカミもあくびをせずにいられない

そのパズルを解くため、科学者は、オオカミの行動を観察している。苦労して、群における社会的なつながりと、あくびの関係を記録してみると、オオカミも仲間の1頭があくびをすると、その後、あくびをすることが発見できた。しかも人と犬の関係同様に、社会的な結びつきが強いオオカミたちほど、あくびは誘発される。あくびの伝染は、感情的なつながりによる共感の基本的な形であると確信できる。

オオカミ同士であっても同じ反応があるということは、あくびの伝染が、人と犬の間の特殊な関係の結果ではなく、広く哺乳類にも起こることを示している。さらに、哺乳類の特長である基本的な共感を、将来、ほかの動物でも発見できるかもしれない。

ともあれ、あくびの伝染において、 何が起こっているのか、それを明らかにするには、より多くの研究が必要だ。

次に、あなたがあくびをしたときには、自分に何が起きているかを考えてみてください。
文:テレサ・ロメロ 絵:大坪紀久子
 

上記は、Nextcom No.21の「情報伝達・解体新書 彼らの流儀はどうなっている?」からの抜粋です。

Nextcomは、株式会社KDDI総研が発行する情報通信誌で、情報通信制度・政策に対する理解を深めるとともに、時代や環境の変化に即したこれからの情報通信制度・政策についての議論を高めることを意図として発行しています。

詳細は、こちら からご覧ください。

Teresa Romero

東京大学 総合文化研究科 広域科学専攻 特任研究員
マドリード・コンプルテンセ大学(スペイン)卒業。
エモリー大学(米国アトランタ)でPD(特別研究員)を経て現職。専門は進化生物学。博士。
動物が利害の衝突を解決する方法などを研究。
近年は犬、オオカミ、チンパンジーに注目している。

関連リンク

株式会社KDDI総研


Viewing all articles
Browse latest Browse all 1494

Trending Articles