「カラーで放送された東京オリンピック開会式の中継は、よく覚えているよ」――年配の方から、そんな話を聞いたことがある読者も多いと思う。東京オリンピックが開催された1964年当時、カラーテレビの世帯普及率は1%未満。にもかかわらず、開会式の中継を思い出す人が多いのは、街頭テレビなどで体感したカラー映像の印象が、記憶されているからではないだろうか。
そして2020年。次の東京オリンピックでは、視聴者が見たいと思うアングルを自由に選べるようになるかもしれないのだ。
「次期東京オリンピックまでに、一般の方々が『3D自由視点』を利用できるようにするのが、現在の目標です。オリンピック会場で生観戦できる人の数は限られていますよね。でも3D自由視点を利用すれば、客席はもちろん、選手と同じ視点で中継映像を見ることができるんです。多くの人に臨場感ある東京オリンピックの映像をお届けしたいと考え、この目標を掲げています」
そう話すのは、KDDI研究所の内藤整さん。内藤さんが研究開発を進める「3D自由視点」は、複数台のカメラで撮影した映像を合成することで、視聴者が自由に視点を操作できる技術。動画にあるサッカー中継の場合、メインスタンド、バックスタンド、2つのゴール裏に設置された合計4台のカメラによって撮影されている。その後、合成処理をした映像では、上空からの視点、ピッチ際の監督と同じ視点、そして選手に寄り添った視点など、さまざまな視点を選ぶことができるようになっているのだ。
協力:Jリーグメディアプロモーション
「サッカーのような誰もが知るスポーツだけでなく、マイナーなスポーツの奥深さを知るのにも役立てるのではないかと考えています。すでに実際のスポーツ中継で、解説者が3D自由視点を使いながらコメントする、といった事例もあるんですよ」(内藤さん)
3D自由視点は、スポーツだけでなくエンターテインメントでも活用されている。こちらは、2012年にメジャーデビューしたバンド「Applicat Spectra(アプリキャットスペクトラ)」のプロモーションビデオを自由視点化したもの。サッカー中継の場合よりも多くの操作が可能で、1人のメンバーだけを登場させたり、背景をCGの壁紙やライブハウスの画像に設定したりすることができるのだ。この3D自由視点を駆使したプロモーションビデオのアプリも配信され、リリースから3カ月で3万ダウンロードを超えた。
「人数の多いアイドルグループで同じことをしても面白いと思いますが、ちょっと操作が大変かもしれません(笑)。ここまでご紹介したのは、複数のカメラで1つの対象を撮影したものですが、逆に観光地などを1つの視点からパノラマ的に見ることのできる自由視点の研究開発も行っています」
そこで画面に映し出されたのは、京都にあるお寺の中の映像。
「6つのアクションカメラが装着された撮影機材を持ち、お寺の中を歩いて撮影した映像です。歩いたところの前後左右上下を自由に見るため、6つのレンズが備えられています。私も撮影に同行しましたが、天井に大きな絵が描かれていて、実はそこが見所だったというのを後から見直して気がついた、ということがありました。このように、旅行後に振り返ったり、一緒に行けなかった人が追体験したり、といった使い方も可能です」
通常、歩きながら撮影すると手ブレによって画面の揺れが起こり、パノラマとして視聴するとさらに増幅される問題があるが、この技術では動画に補正が加えられ、視聴しやすいのが特徴。補正処理には10分程度の時間しか要さないという。
(株)KDDI研究所 超臨場感通信グループ グループリーダーの内藤 整さん
「将来的には、スマートフォンを使って誰でもパノラマビューを撮影、楽しめるようにすることも構想しています。具体的な使い方の例を挙げると、仲間とテニスをする模様をパノラマで撮影し、アップロード。処理は短時間で完了するので、汗を流した後の飲み会でプレーを振り返る、なんてこともできると思います」
つまり、個々のスマートフォンユーザーが撮影した動画も自由視点で視聴できるようになるかもしれないということ。テレビ、動画はただ見るだけでなく、好きなアングルを選べる時代がすぐそこまでやって来ているのだ。
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