ソニーの社内スタートアップとして2014年5月に登場したDIYツールキット「MESH」。それぞれ、加速度センサー、ボタン、LED、他の電気部品等への入出力端子を搭載した長方形状のシンプルなデザインの小型ボックス。iOS用のアプリで機能を割り振ることで、難しいプログラミングの知識が無くてもさまざまな動作をさせることが可能だ。
特筆すべきは、スタートアッププロジェクトとして小さなチームによって開発や事業化が進められ、クラウドファンディングサービス「Indiegogo」で資金の募集がされたことだろう。このような方法を選んだ意図について、MESHに取り組むソニーの萩原丈博さんは、次のように話す。
「このプロジェクトが始まる前、私自身が会社の公募で1年間、シリコンバレーに滞在することになり、そこでさまざまな刺激を受けました。早い段階からMESHを使っていただけそうな方とコミュニケーションをしたいという思いがあって、Indiegogoでの募集という形を選びました」
日用品との組み合わせがキーになったワークショップ
グリーン・オレンジ・スカイブルー・グレーの4色がビビッドな印象のMESH。コンセプトは「誰でも発明ができるツールとして、日常のアイデアをすぐに形にできるアイテム」(萩原さん、以下同)。iPad上で各モジュールの役割を割り振れば、ボタン操作やセンサーの反応で、光らせたり音を鳴らしたり、直感的に設定ができる。
ただし、製品単体を見ただけでは、どのようなことができるかイメージがしづらい部分もある。そこで、身の回りにあるモノをMESHと組み合わせて使う方法を考えるワークショップを、日米で複数回実施したという。
「小学3〜6年生を対象にしたワークショップでも、10分程度で問題無く使えるようになりました。例えば、おはじきが当たると爆発音が鳴るようなことができると、それをヒントに次々に新しいアイデアが生まれていく。イベントでは、発想や気付きがその場で共有され、どう使えばいいのかすぐに理解してもらえました」
ちょっとしたアイデアで遊び心を刺激させるモジュール
MESHのボタンと、ソフトウエア上のタイマータグを組み合わせることで、スピーカーはベッドにあっても、それを止めるスイッチは洗面所にある、といった目覚まし時計を作ることができる。だが、ワークショップでは、より高度なアイデアが生み出された。
「MESHのアプリには録音機能もあります。歯ブラシに加速度センサーをつけて、まず『上の歯を磨きましょう』という音声が出て、20秒後には『今度は下の歯です』と呼びかける仕組みを小学3年生が作っていました」
さらに、取材した際に萩原さんが見せてくれたのは、筋力トレーニングに使うダンベルに、加速度センサーを取り付けたもの。ゆっくり上下させても何の変化もないが、一定以上の速さで動かすと音が鳴る仕組みだ。こういった遊び心を刺激させられるのが、MESHの魅力の一つだ。
新モジュールの開発も?
2015年5月上旬にIndiegogoで投資したユーザー向けへの発送が開始。今後は一般販売も検討していくという。「実際に作ったものをFacebookなどに投稿していただけており、要望や作られたものを見ながら次の展開を考えていきたいです」と萩原さん。4種類以外のモジュールの開発についても「アイデアレベルでは数十種類出ています。これから、どうやって絞り込んでいくのかを決めていく段階です」と語る。
「将来的には、各家庭に文房具があるように、MESHが箱に入っていて、それで家庭の悩みを解決できるようになるのが理想です。『こんなことができるんだ』という気付きがあると、生活上の課題に目が行くようになっていく。一部の人にしかできなかった"発明"が、気軽にできるようになると、イノベーションが今まで以上に進むようになる。MESHがそれに貢献できるとうれしいですね」
今後は開発者向けにAPIを整備して順次公開していく方針だという。ソニーがユーザーと密に関係を持ち、成長させていくプロジェクトという点で、発売後の展開にも要注目だ。