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【ITスーパースター列伝】ジェフ・ベゾス ~赤字企業「Amazon」の経営哲学~

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世界最大のネット通販サイト「Amazon.com」。しかし、同社は創業以来、赤字続きの企業として知られている。それでも世界中から投資が舞い込み、四半期ごとに過去最高の株価を更新してきた。人々は同社の何に魅せられているのか。創業者である、ジェフ・ベゾスCEOの経営哲学に迫る。

ベゾスがWebの持つ潜在力に気がついたのは早かった。

アメリカのプリンストン大学で電気工学を学び、卒業後はウォール・ストリートの金融機関のIT部門担当としてキャリアをスタート。その後、ヘッジファンドのD・E・ショーに移籍し、シニア・バイス・プレジデントを務めるなど出世コースを歩んでいたが、World Wide Webが普及し始めた1994年にインターネットの将来性を確信し退職。ワシントン州シアトルでAmazonの前身となるネット書店「Cadabra.com」を立ち上げている。高給取りだった金融の仕事を捨て、まだ黎明期だったネット通販の可能性に賭けたのだ。

翌年にはAmazon.comに改名。1997年にはドットコムバブルの追い風も受け、わずか3年でナスダック上場を果たす。以来、ネット通販サイトの最大手として、世界中に”インターネット・ショッピング”を広める旗手として現在も君臨している。

しかし、これだけ順調に成長を重ねてきたにもかかわらず、Amazonの業績はずっと「赤字」だ。四半期ごとに発表される財務報告では、「売り上げは伸びているが赤字。でも株価は過去最高」という内容が何度も繰り返されている。どうして利益が出ないのか。

これは最短でその日の夕方には商品を届ける「お急ぎ便」に代表されるように、競合他社の常識ではあり得ないような安さでサービスを拡大し続けているからだ(利用に必要なのは年会費のみ)。その姿勢はネット通販だけでなく、Amazonによるサーバーのレンタルサービス「AWS」の料金設定をめぐる以下のエピソードにも表れている。

当初、AWSの担当者は競争力と収支を天秤にかけ、1時間15セントを基本料金とした。これなら「黒字にならないが赤字にもならない」のだ。しかし、ベゾスに「10セントにしろ」と一蹴される。(ノンフィクション『ジェフ・ベゾス 果て無き野望』参照)

つまり、ベゾスは莫大な赤字という犠牲を払ってでも、競合他社が追いつけないレベルでの価格設定を重視する。しかも、「安かろう悪かろう」ではなく、利便性もしっかり確保する。そうすることで、Amazonが参入するサービスでは「Amazonの一人勝ち」とでもいうべき状態が訪れる。利益は、その後でコストカットするなどして、ゆっくり上げればいい。

ここで不思議なことが起こる。こんなに綱渡りの経営を続けていたら、世界中の投資家たちからはそっぽを向かれてもおかしくはない。しかし、Amazonには全くその気配がなく、今も人気銘柄であり続けている。

確かにベゾスの言うとおり、長期的に見れば、Amazonのビジネスプランはいつか利益がもたらされる仕組みになっている。しかし、その”いつか”は誰に分わからない。少なくとも、創業から20年を経た今でも訪れてはいない。

それでも投資家の支持が集まるのは、ベゾスの描く未来像があまりにも明快で、「実現しないわけがない」と思わせてしまうからだ。前掲書によると、彼は来年の予定どころか、1万年後までも見通してビジネスを考えているという。その最終目標は、世界中の小売業がAmazonに集約されること――。そんな「夢」に、世界中の投資家たちが魅せられているのだ。

2014年はいよいよ「数億ドルの黒字」という見通しもあり、市場の期待は高まっている。だが一方で、期末になると新規事業に多額の投資を行い、また赤字に転落するという展開も、Amazonではお馴染みのものだ。

結局のところ、すべてはベゾスの意向次第。何せ、こんなことを語る人である。

「失敗は、新しいものを生み出すのに不可欠である。もし絶対に成功すると分かっていたらそれは挑戦ではない。Amazonは私たちが新しいことに挑戦し続けた結果である」

参考情報(外部サイト)

『ジェフ・ベゾス 果てなき野望』(日経BP社)

TIME&SPACE(タイムアンドスペース) KDDIのオンラインマガジン

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