イーロン・マスク/テスラモーターズ会長兼CEO
【何をした人?】ペイパルを皮切りに、テスラ、スペースXを創業
【何ですごいの?】テスラはEVメーカー3強の一角、スペースXはNASAと契約するまでに成長させた
【今は何をしている?】EV、宇宙事業を継続するほか、大規模太陽光発電所や高速鉄道をつくる構想も
EV(電気自動車)メーカーのテスラモーターズ、宇宙開発を行うスペースXと、2つの会社でCEOを務めるイーロン・マスク。この他にも、原発より大きな電気を生み出す太陽光発電所や、時速1,200kmで走る高速鉄道を作る構想も持っている。映画『アイアンマン』主人公のモデルだけあって、まさに「鉄人」並みに多くの仕事をこなすが、今日の活躍は、IT企業での経験が礎となっている。
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9月9日、1人のアメリカの起業家が、日本の首相官邸を訪れた。彼の名は、イーロン・マスク。マスクは、安倍晋三首相と30分程会談し、彼の会社が行っている宇宙開発、太陽光発電、そしてEVが話題に上ったという。
多くの事業を手掛けているとはいえ、外国の政府要人でもなければ、世界各地に拠点を持つような企業の経営者でもない、アントレプレナー(起業家)に首相が面会することは、大変珍しい。一体、イーロン・マスクとは何者なのだろうか。
マスクが最初に興したのは、IT企業だった。1999年に立ち上げたXドットコムはオンライン決済を行う会社で、2000年、同じ事業を行っていたコンフィニティと合併。「ペイパル」と改称したこの会社は、2002年、世界最大規模のネットオークション企業eBayによって15億ドルで買収される。共同創業者の1人であるマスクも売却益を手にし、テスラ、スペースXを立ち上げる元手となった。
ここで疑問を持つ人もいるかもしれない。
電気自動車や宇宙開発をビジネスにする場合、未知な部分が多く、さらに巨大企業がライバルとなる。新規事業としてはあまりにリスキーだ。にも関わらず、なぜ、マスクはこれらの事業に参入しようと考えたのだろうか?
マスクは、IT業界から退いた理由を、「自分でなくても世界を変えられる人がいる」からだと語っている。「世界を変えたい」との思いを持つマスクは、学生時代からインターネットだけでなく、再生可能エネルギー、宇宙も世の中に大きな影響を与えるだけの力を持っていると考えていた。そして、この分野に手を出そうとするリスクテイカーは、少ない。人材豊富なITの世界にとどまるより、新たな世界に身を投じて革新を追求し続けることを、マスクは決断したのだ。
しかし、ITから身を引いたといっても、そこで培われた技術やマインドは、今の仕事にも生かされている。
テスラでの具体例を挙げると、今年、日本でも納車が始まったセダン「モデルS」にそれが表れている。同車には、発売後「クリーピングモード」という機能が追加された。オートマチック車に見られる「クリープ現象」は、EVでは発生しない。しかし、「渋滞のときにクリープすると便利」とのユーザーからの声によって、この機能が設けられたのだ。そして、クリーピングモードを搭載するために、わざわざディーラーを訪れる必要はない。というのも、モデルSはインターネットに常時接続しており、オンラインアップデートによって機能が自動的に追加されていく。このように、ほとんど手を掛けずに次々と便利な機能がアドオンされていく。テスラが「走るスマートフォン」と呼ばれる所以だ。
また、技術の公開にも積極的なのがマスク流だ。
テスラは今年6月、自社が持つEV関連の特許を開放すると発表した。ローテクからハイテクまで、世界中の企業が自社の技術流出に神経を尖らせる中、異例ともいえる決断といえる。
一方で、同月には日産自動車、BMW、そしてテスラの3社が、急速充電器の規格統一へ向け協議を始めたと、イギリスの経済紙『フィナンシャル・タイムズ』が報じている。「EVメーカー3強」と呼ばれる3社だが、自動車メーカーとしての歴史、年間生産台数、株式時価総額でテスラより他の2社の方が勝っていることはいうまでもない。それにも関わらず、協議のテーブルについたのは、テスラの特許開放によるところが大きいという。
もちろん、特許開放を「自滅行為」だと懸念する声もある。しかしマスクは、「EVが普及するため」には必要なことだと説明する。現時点でEVは、世界の自動車生産台数の1%にすら満たないが、マスクが目指しているのは、多くの自動車メーカーが参入することで、この半分以上をEVが占めるようになる未来だ。
こうした事実からも、マスクのIT業界での経験が今も生かされていることが分かる。スマホOSのアンドロイドは、オープンソース(公開されたソースコード)でユーザーの自由度が高く、iOSより高い世界シェアを有する。つまり、マスクはEVを「オープンソース化」することで、その繁栄を目指しているといえるのではないだろうか。
【参考資料】『日経ビジネス』2014.9.29号
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