iPhone、iPod、MacBook、iMacなど、アップルの主要製品のデザインを手掛けるデザイナー、ジョナサン・アイブ。デジタルデバイスにおけるデザインに革命を起こした彼は、デザインにおいては「新しい」ことより、「より良い」ことが重要だと語る。その意図とは?
アイブは、数少ないスティーブ・ジョブズの復帰以前からのアップル在籍者だ。
業績不振によりアップルを追い出されたジョブズは、自身の会社「NeXT」を設立。1996年にアップルへ復帰すると、役職者の大半をNeXT出身者で占めた。しかし、アイブはクビにならなかっただけでなく、”ジョブズの右腕”と称されるほど重宝された。彼のデザインセンスは、アップルには欠かせないものだったのである。
例えば、初代iMac。1998年に発表された同製品は、キャンディのようにカラフルな色彩が特徴的で、従来のパソコンのイメージにつきまとっていた「賢そうだけど、重たそう」という印象を払拭した。実際、パソコンをユーザーにとって身近な存在にするために、アイブたちのチームは「ドロップキャンディ」から着想を得たという。
21世紀に入ると、アイブのデザインは「ミニマリズム」に傾くようになる。特にiPodの成功がその流れを後押ししたといわれ、光沢のあるアルミニウムを採用したMacBook、そしてタッチパネルを全面的に使ったiPhoneやiPadが生み出された。
アイブのデザイナーとしての業績は、よく、このミニマリズムに対する称賛というかたちで表される。類まれなるセンスにより、デジタルデバイスを芸術品にまで高めた、というわけである。
しかし、アイブ自身はミニマリズムに至った経緯を、英テレグラフ紙に次のように語っている。
「私たちの製品はツールであって、それを邪魔するデザインはしたくない。シンプルさと分かりやすさをもたらしたいのです。製品を機能させることに集中しています。(中略)デザインは、非常に意味のあることであり、同時に全く意味のないことでもあります。私たちがデザインに特化して語ることはありません」
また、アイブは別のインタビューで、デザインの目的を、「新しいもの」を作ることではなく、「より良いもの」を作るためだと述べている。
「デザイナーとして私たちがやろうとしてきたことは、新しいものや違ったものを作ろうというのではなく、ただ『より良く』しようということです。ゴールは『より良く』であり、『新しい』でも『違う』でもないのです。これこそ私たちのデザイン哲学の最も大事な点であり、長所だと考えています」(『Casa BRUTUS』2012年3月号「Appleは何をデザインしたのか!?」より)
アップルの製品は、人々のライフスタイルをテクノロジーで「より良く」することを目的とし、アイブはデザインにおいてそれを表現した。つまり、ミニマリズムは単純に美的な要請から導き出されただけではなく、アップルが目指す理念を具現化したものだったのだ。デザインと機能、そして企業理念が密接に結びついたものだったからこそ、アップル製品は唯一無二の存在になったのである。
ジョブズ亡き後、アイブが想像する「より良い」未来とは何なのだろう。そのプラン次第では、ミニマリズムすらも過去のものとする、全く新しいデザインが登場するかもしれない。