「もうひとりのスティーブ」ことスティーブ・ウォズニアックはAppleの共同創立者であり、ほぼ独力で世界初のパーソナルコンピューターを作り上げた天才エンジニアとして知られている。そんな彼が自伝で語った、「優れたエンジニアの条件」とは?
スティーブ・ウォズニアックは、エンジニアを「世界最高の職業だ」と公言してはばからない。自伝『アップルを創った怪物』でも、次のように語っている。
「今も僕は、エンジニアとは世界の鍵を握る人種だと信じている。僕はエンジニアであり続けたいと願い、エンジニアリング一筋に進んできた」
また、ヒューレット・パッカード(HP)に電卓のエンジニアとして勤めていた際も、こう述懐している。
「ここ以上の企業は、僕には考えられなかった。僕は一生エンジニアとして過ごすんだって決めていたからね。しかも、世界が注目している最先端の製品、関数電卓の仕事ができるなんて。これ以上の幸運、あるはずないってくらいだった」
その後、ウォズニアックは世界初のパーソナルコンピューター「Apple1」を開発し、スティーブ・ジョブズとともにAppleの共同創立者となったが、経営幹部の座につくことを拒否する。しかも、莫大な成功が見込まれていたにもかかわらず、Appleが創業してしばらくは、HPのエンジニア職に戻るつもりだったという。
Appleに参加することを決めたのも、「役員ではなく、あくまでひとりのエンジニアとしての立場が保証されるなら」との条件付き。実際、ウォズニアックは株主配当金を何億ドルも受け取りながら、Appleの「社員No.1」として現在も登録されている。
スティーブ・ジョブズが「世界を席巻する会社を作りたい」と願ったのに対し、ウォズニアックは「テクノロジーで人々の生活を変える」ことこそが自分の仕事だと考えていた。それが利益となるかどうかは、関心の外だった。
ウォズニアックは、金銭への執着がほとんどない人物としても知られ、Appleが「フォード以来、最大の株式公開」を行った際には、自分の持ち株から、社員の誰にでも1株5ドルという格安の値段で販売する「ウォズ・プラン」を実行した。これは経営幹部だけがストックオプションを得られるのは不公平なのではないか、という思いから始めたものだった。
金銭にこだわりがなく、ものづくりこそが自分の使命だと考える生粋の職人(エンジニア)、それがウォズニアックという人物の正体である。ウォズ・プランも、共に働く人々を「従業員」ではなく「家族の一員」と考える職人のギルド的な発想から出てきたものだ。
彼は前掲書で、「エンジニアとはアーティストでなければならない」と語っている。これはそのまま、ウォズニアックが考える「優れたエンジニアの条件」ともいえるだろう。
「普通は、エンジニアをアーティストとは考えないと思う。エンジニアというものは、作るものとの関係で捉えられることが多いからね。でも、そういうものは、エンジニアがよく考えなければ、どうしたら少ない部品で最高の結果が得られるのか、そのためのベストのやり方は何かを考えなければ、きちんと動くものにはならないし、エレガントだとか美しいとか感じるものもできない。(中略)芸術の域にまで高められたエンジニアリングにお目にかかれることはめったにないが、本来は、そうあるべきものなんだ」