海上で船がクジラに衝突するのを避けるためのモバイルアプリが「ホエールアラート(Whale Alert)」だ。2012年に米国東海岸のタイセイヨウセミクジラを守るために開発されたアプリだが、この9月にアップデートされて対象のクジラの種類を増やすとともに、米国西海岸やカナダ沿岸でも利用できるようになった。
ホエールアラートは、iPadやiPhone用の無料アプリで、NOAA(米国海洋大気庁) の国立海洋保護区事務所が中心になって、多くの政府機関や学術機関、NPO、民間企業の協力で開発された。船の航行中にクジラ保護のために速度を規制されたエリアに入ると警告してくれたり、クジラが多いエリアを避けるための推奨航行ルートを提示してくれたりする。ボストン湾では、湾内に設置した音響探査システムによってタイセイヨウセミクジラの鳴き声が24時間以内に探知され、船の速度を落とすことが推奨される場所まで表示してくれる。
また、クジラを目撃した場合の規制を調べることもできる。例えば、タイセイヨウセミクジラに対しては、1500フィート(約457メートル)よりも接近することはアメリカ領海内では違法行為に当たるため、注意深く回避しなくてはいけない。こうした情報もアプリで提供されている。
さらに、アプリ側でもクジラの目撃情報をアップロードできるようになっており、観察網をクラウドソーシングにより強化する仕掛けになっている。集められた目撃情報は、クジラ類の保護の推進に利用されるほか、ホエールアラートウェストコーストのウェブサイトでも見ることができる。
クジラが捕食したり回遊する場所やコースは船の航路と重なる部分が多いため、船との衝突はクジラ類にとって大きな危険となっている。2007年にはサンタバーバラ海峡で4頭のシロナガスクジラが、2010年にはサンフランシスコエリアなど北部・中部カリフォルニア沿岸でシロナガスクジラ、ザトウクジラ、ナガスクジラ計5頭が犠牲になった。クジラを避けることは船の運航にとって重要な課題となっている。
開発メンバーには、自然環境や野生動物の保護のため、さまざまなデータをさまざまなソースから集め、モバイルやウェブで利用可能な情報──具体的なアクションにつなげることができる情報──に加工することを目指して設立されたフロリダのベンチャー、Conserve.ioも加わっており、iTunesでのアプリ提供元となっている。同社は、同様の趣旨で開発された「マナティーアラート(Manatee Alert)」の開発にも参画している。
著者:信國 謙司(のぶくに・けんじ)
NTT、東京めたりっく通信、チャットボイス、NECビッグローブなどでインターネット関連の事業開発に当たり、現在はモバイルヘルスケア関連サービスの事業化を準備中。
参考情報(外部サイト)
アメリカ大洋大気庁のプレスリリース
ホエールアラートのウェブサイト
ホエールアラートウェストコーストのウェブサイト
iTunesのWhale Alert紹介ページ
Conserve.io社のウェブサイト
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