富山県の黒部峡谷は、国の特別名勝および特別天然記念物に指定されているとともに、日本三大峡谷のひとつにも数えられている国内屈指の名勝である。四季折々で違った表情を見せる日本一深いV字峡谷をひと目見ようと、この地を訪れる観光客は後を絶たない。
深く切り立った急峻な谷は息を呑む美しさ(写真提供:黒部峡谷鉄道)
大自然を縫うようにしてトロッコ電車が走る(写真提供:黒部峡谷鉄道)
紅葉の時期の美しさもまた格別(写真提供:黒部峡谷鉄道)
そんな黒部峡谷は自然公園法の特別地域にも指定されているため、携帯電話の基地局を新たに設置することが難しく、観光客はスマートフォンや携帯電話を使えない状態が長きにわたって続いていた。
そのような状況のなかKDDIは、近年、景観への配慮など様々な工夫をしながら、通信エリア対策工事を順次行い、電波状況の改善を図っている。今回は黒部峡谷鉄道の鐘釣駅周辺の電波対策工事を行うとのことで、その模様を密着取材することにした。日本一深いV字峡を擁する黒部峡谷に、KDDIはどうやって電波を届けたのだろうか?
風を肌で感じながら、黒部峡谷の絶景を堪能!
黒部峡谷観光は黒部峡谷鉄道の宇奈月駅が拠点となる。北陸新幹線の黒部宇奈月温泉駅で富山地鉄に乗り換え、終点の宇奈月温泉駅で下車。そこから徒歩数分のところに黒部峡谷鉄道の宇奈月駅がある。東京からの所要時間は約3時間だ。
黒部峡谷鉄道の始点、宇奈月駅
T&S取材班はここでKDDIエンジニアリング金沢支店の平元貴志と合流。平元は今回の黒部峡谷の件はもちろんのこと、北陸エリア全域の通信エリア対策を担当している。T&Sでは以前に北陸新幹線沿線の基地局建設工事の記事にも登場してもらった。
黒部峡谷鉄道の特徴は、車両が小さなトロッコ電車であること。この鉄道はもともと、発電所建設の資材や作業員の輸送を目的として敷設されたものであり、それがのちに観光列車として運行されるようになったという経緯がある。
黒部峡谷鉄道のトロッコ電車は、始点の宇奈月駅から終点の欅平駅まで、全長20.1kmを片道1時間20分で結ぶ小さな機関車
窓がない普通客車は大自然の空気や風を肌で感じることができ、開放感たっぷり。雨の日や寒い時期でも安心な窓付きの客車もある
宇奈月駅を出発後、ほどなくして右手に見える湖面橋。エメラルドグリーンの水面が美しい
トロッコ電車はいくつもの橋やトンネルを抜けながら、のんびりと進んでいく
トロッコ電車が奥へと進むたびに、車窓から見える景色は秘境感が増していく。深く切り立った険しい谷は迫力満点だ
今回の通信エリア対策を担当する、KDDIエンジニアリング金沢支店の平元貴志。「黒部峡谷にはたびたび足を運んできましたが、この景色は何度見ても飽きることがありません」
対策工事前、鐘釣駅周辺では「圏外」の表示
宇奈月駅を出発して約1時間、目的地の鐘釣駅に到着。絶景を堪能しながらのトロッコ電車の旅はあっという間に感じられた。
今回通信エリア対策が行われる、黒部峡谷鉄道の鐘釣駅
鐘釣駅周辺では数々の景勝地や秘湯めぐりを楽しむことができる。
清流と温泉が楽しめる鐘釣河原
鐘釣の名物、万年雪・・・・・・のはずが、今年は積雪が少なく、溶けてしまったという
鐘釣駅でスマートフォンをチェックしてみると・・・・・・
「圏外」と表示されていた。これが今回の対策工事によってつながるようになる予定だが、一体どのように対策をするのだろうか。
黒部峡谷に電波を届ける秘策とは?
今回の工事は、鐘釣駅周辺における状況の改善を測るためのものだが、先述したように、この一帯は景観への配慮など様々な事情から、携帯電話の基地局を設置することが難しい場所である。KDDIはどのようにしてここへ電波を届けようとしているのか? 平元に聞いた。
――そもそも今回、黒部峡谷鉄道沿線の通信エリア対策をすることになった経緯は?
「黒部峡谷鉄道は年間40万人近くが利用する山岳観光ルートです。2015年3月の北陸新幹線の開業の影響もあり、観光客は増加しています。また、日電歩道や水平歩道といった登山道もあり、幅広い年齢層の登山者が訪れています。
そのような状況から、防災や緊急救助活動での利用が増えており、それらを踏まえて、KDDIとして通信エリア対策を実施することとしました」
――黒部峡谷一帯は、携帯電話の基地局が難しい場所なんですよね?
「はい、ここ黒部峡谷一帯は、日本でも有数の観光地ということもあり、景観を壊さないように機器を設置するということが前提でした。無線設備や電源設備は、観光客の方の目にとまると、せっかくの旅気分が台無しになりかねませんから。そこでまずは、黒部峡谷鉄道さんと協議のうえで、目立たない場所を探すことから始めました。
その場所の選定が特に苦労したところです。時間をかけていろいろと探したのですが、ふさわしい場所がなかなか見つかりませんでした。そんななか、V字峡谷では雪崩や土砂災害があることから、それらを防ぐコンクリート壁があることに気付き、結果的にここに目を付けたのです。コンクリート壁の裏なら、目立たずに機器を設置できるのではないか、と。
また、この地域は環境省が管理している地域で、自然公園法の特別地域に指定されていますので、自治体の携帯電話の対策要望書により設置が可能となりました」
左:電波を発するアンテナはコンクリート壁の外側に設置されることに。右:無線設備や電源設備をその壁の裏に設置している工事の様子
――計画から実現まで、期間はどれくらいでしたか?
「計画がスタートしたのは2015年の8月なので、ほぼ1年がかりですね。夏から秋にかけて現地調査を実施し、豪雪で現地に入れない冬のあいだは関係各所への申請等を行ってきました。観光のメインシーズンである夏までには電波を届けたいという思いでやってきて、なんとか間に合わせることができました」
――今回の通信エリア対策で、特に難しいところは?
「機器の運搬ですね。黒部峡谷鉄道沿線は、道路が通っていなく、自動車でアクセスすることができないため、無線機、バッテリー、ケーブル、アンテナといった機器を、下からトロッコ電車で運搬しなければなりませんでした。
機器の運搬のためのトロッコの運行は貸切が条件。積載には重量と寸法の規定があり、その内容に沿って荷物を振り分ける必要がありました。トロッコが鐘釣駅に停車できる時間は最大で40分。その制限時間内に安全かつスムーズに荷下ろしが完了できるよう、入念な準備が必要でした。
工事に必要な部材(機器、配線、配管、工具)をトロッコで運搬している様子。部材の仮置き場の確保や運行時間に関して駅側とぎりぎりまで調整が進められた
また、重機を現地に運び込むこともできないので、すべてを人の力で動かさなければなりません。人の目に入りにくい場所は、すなわち通常では行きにくい場所でもあるので、それが大変でしたし、安全に気を配りました」
「北陸全域の通信エリア対策を担当していますが、そのなかでもここ黒部峡谷は電波を届けるのが群を抜いて難しいところです」と平元
長時間に及ぶ工事を経て、鐘釣駅に電波が届いた!
アンテナ設置工事が行われたのは、すっかり日が暮れ、あたりが闇に包まれてから。安全管理上、トロッコ電車の運行中は工事が行えず、運行終了後の夜の時間帯でなければできないという。なお、機器の運搬や無線設備などはすでに完了しており、この工事が今回の通信エリア対策における総仕上げとなる。
平元は現場の責任者としてスタッフに指示を出していく
アンテナを設置した後、無線機器や電源機器のあるコンクリート壁の裏まで配管にケーブルを通していく。工事は深夜まで及んだ
実際に電波が届くなるようになるのは、その数日後のこととなる。平元から「つながりました!」というコメントとともに、次の写真が送られてきた。
先日の取材時には「圏外」の表示だったが、今回は「au4G」と表示され、つながっていることが確認できた! 鐘釣駅周辺における通信エリア対策工事は無事に完了したようだ。
人口カバー率99%を超えるauのLTE通信網。日頃、スマートフォンや携帯電話を使っていて、「つながらない」と感じることはほとんどないだろう。しかし、黒部峡谷のような奥深い山間部では、2016年現在においても「圏外」の場所があるのも事実である。そして「つながらない」ということは、単に不便なだけでなく、防災や緊急救助対策の観点から見てもマイナスの要素になりかねない。全国津々浦々、電波が届いているかどうかをくまなくチェックし、「つながらない」を「つながる」へと変えていくことが、平元をはじめとする担当者の役割だ。
「人が行くところは、すべてつながるようにしたい」と平元は語る。今日もどこかで、ゲンバダマシイを熱くたぎらせるKDDI関係者が、「つながらない」を「つながる」へと変えるべく、地道な努力を続けている。
※掲載されたKDDIの商品・サービスに関する情報は、掲載日現在のものです。商品・サービスの料金、サービスの内容・仕様などの情報は予告なしに変更されることがありますので、あらかじめご了承ください。
関連記事リンク(外部サイト)
海越しに電波を飛ばせ! 「世界遺産・屋久島でスマホが使える」を実現した驚愕のアイデア
世界遺産・軍艦島でスマホが使える! そこには"ある秘密"が隠されていた
「"富士山"が勤務地です!」。登山者の安全と快適のために、日本最高峰へ電波を届ける