Googleの共同創業者のひとり、サーゲイ・ブリンはここ数年、新しいウエアラブルデバイス「Google Glass」の開発に注力している。実用化も間近と伝えられるこのメガネ型の端末に、彼はどんな未来を見ているのか?
「欲しい情報がその時に向こうからやって来る世界、それを15年前に思い浮かべました」
昨年2月、TEDに登場したブリンは、Google Glassを紹介するプレゼンの中で、そのように述べた。15年前とは、Googleが会社として設立された年である。
Googleの追求により、検索窓に言葉を打ち込んで、自分から欲しい情報を探すことは今や当たり前になった。しかし、ブリンは、そのビジネスを立ち上げた瞬間から、「目指す未来はこれじゃない」という感覚を抱き続けてきたのだという。
PCからスマートフォンへと時代は変わり、検索はまさに”いつでも・どこでも”可能になった。いわば、デジタル端末と我々の身体との距離がどんどん近くなっていったのが、コンピューターの進化の歴史とも見ることができる。
しかし、Googleにとってはこれがゴールではない。ブリンがGoogle Glassを発案したのも、「検索はもっと自然に行うことが理想なのではないか?」という発想がもとになっている。彼は言う。
「スマートフォンを覗き込むたび、人や情報と今後もずっとこのようなかたちでつながっていくのだろうかとすごく疑問を抱きました。(スマホを見ながら)下を向いて歩く姿が人類の最終形なのでしょうか? こうしたビジョンによって、僕らはGoogle Glassをデザインしました」
ブリンがスマホに感じた疑問とは、常に手元をじっと見ることで、「社会とつながるどころか、人はかえって孤立してしまうのではないか?」というもの。使い込めば使い込むほど、人間にとって不自然な道具に思えてきたというのだ。
ここで冒頭の発言に戻る。検索の理想とは、能動的に行うことではなく、欲しいと思った瞬間に向こうから来ること。まずブリンは、スマホに支配されていた手を解放することを考え、次いで両目を”のっぺりとしたガラスの板”から解放することにした。それで行き着いたのが、メガネ型のウエアラブル端末だったというわけである。
Google Glassでは、文字を入力する手間はない。「OK,Glass」と声をかければ欲しい情報を検索してくれるし、検索機能をオンにしておけば、目に映る人やモノに関連する情報を自動で表示してくれる。
小型のカメラは、開発の初期段階では搭載されていなかった。しかし、これを実装したことで、デジカメやスマホを取り出す必要もなく、いつでも家族や友人と過ごす時間を切り取り、その場でシェアできる。検索だけでなく、ソーシャルの機能も導入されたのだ。
もともとGoogle設立の目的は、「世界中のあらゆる情報をネット上に解放すること」にあった。しかし、Google Glassの計画によると、将来的にはユーザーが見ている”すべての光景”をクラウド上のストレージサーバーに保存し、必要に応じて検索できるようにするつもりだという。世界中の情報だけでなく、自分の記憶すらも、ネット上に保存されるようになるのだ。そのとき、すべてはGoogleの手の中にある。
果たして、この未来を素晴らしいと感じるか、それともディストピアと感じるか。それは人それぞれだろう。ただ、Googleがウエアラブルデバイスにより、人類の可能性を更新しようとしていることは確かだ。